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【国語逍遥】(101)清湖口敏 ギオンは擬音? 地域限定で生きる「祗園」

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【国語逍遥】
(101)清湖口敏 ギオンは擬音? 地域限定で生きる「祗園」

パソコン画面に出てくる「祇園」の変換候補 パソコン画面に出てくる「祇園」の変換候補

 「祇園(ぎおん)」は京都の八坂神社付近の地名としてよく知られるが、インターネットのフリー百科事典「ウィキペディア」には「祇園」が付く全国の地名23カ所が列挙されている。その中で唯一、「祇園」ではなく「祗園」と書かれたところがある。川崎市中原区の「木月祗園町(きづきぎおんちょう)」である。

 えっ、どこが違っているのかとご不審の方もおられようか。とくとご覧を。木月祗園町の「祗」だけが旁(つくり)(氏)の下に横棒が付き、「○」になっている。ちょうど「底」や「低」に見られる「○」と同形である。

 日本郵便が発行する郵便番号簿でも確認してみたところ、やはり「木月祗園町」と書かれてあった。

 祗は祇と似てはいるものの、全くの別字で、祇の音がギであるのに対し、祗はシである。だから祗園はシオンと読むほかない。

 市販の国語辞典や漢和辞典には、ギオンに祗園の字をあてるものはさすがに見当たらないが、厄介なのは、パソコンやスマートフォンに搭載されている漢字変換辞書の中に祗園を載せるものがあることである。「ぎおん」と打って漢字変換させると、祇園や擬音などに交じって祗園も候補語として出てくる。

 祗園がギオンとは、これこそ“擬音”いや“偽音”なのだが、考えてもみれば国語の世界では誤字誤用が幅を利かせ、さらには悪貨が良貨を駆逐するような例だって少なくない。国語の森を逍遥するうちに、突如としてそんな例に出くわしたりすると、私はもううれしくてたまらない。国語はやっぱり面白い!

 小欄の連載は今回をもって終了します。勝手気ままな「逍遥」に長らくお付き合いくださり、ありがとうございました。

●=さんずいの右に黒の異体字の下に土

▲=土へんに赤

▼=土へんに谷

◆=さんずいに和

○=砥の石を削除

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