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【直球&曲球】春風亭一之輔 誰か『水を差さ』ないと取り返しつかぬことも

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【直球&曲球】
春風亭一之輔 誰か『水を差さ』ないと取り返しつかぬことも

 国内観測史上最高の気温「41・1度」を表示する埼玉県熊谷市内の温度計=23日  国内観測史上最高の気温「41・1度」を表示する埼玉県熊谷市内の温度計=23日

 とにかく暑い。

 22年前、私が通っていた高校には冷暖房設備が一切なかった。ストーブすらない男子高。導入案が持ち上がるたびに、『俺たちの頃もなかったんだから気合で我慢しろ!』的根性論でOB会が反対する。「質実剛健」が校訓だ。

 22年前でも暑さ寒さは過酷だった。私たちは夏は半裸、冬はマフラーにコートを着込んで授業を受ける。「この学校なら当たり前だ」と思っていた。厳しい試練に耐える自分たちに酔っていたフシもある。しきりに冷暖房導入を先生に訴えていたA君は「この状況で成績が上がるわけない。俺は塾がホームだ」と公言していた。A君は現役合格。私は一浪した。

 中学では『掛け声清掃』なる習慣があった。「いーちに、さーんし!」と大声を発しながら校舎の掃除。皆で声をそろえて、雑巾がけをすると、一種のハイな状態になってくる。声を出さない者は『帰りの会』で「なぜみんなと気持ちを合わせないのか!」と先生やヤル気のある生徒から糾弾された。

 いつも声を出さないBさんが言った。「口から埃(ほこり)が入って、衛生的によくないんじゃないですか?」。真正面からの正論に、教室が静まりかえった。結局、学級会で「掛け声清掃は、是か非か」の決をとることに。「声を出した方が、掃除に集中できる。続けるべきだ」という意見が過半数で先生はホッとした様子だった。

 A君もBさんもクラスでちょっと浮いた存在だ。みんなが一つになって「ウットリ」しようとしてるのに、正論を振りかざし水を差してくる。人の性格はそう変わらないから、今もどこかで広範囲に『水を差し』続けていることだろう。

 「土用丑(うし)の日、本当に必要か!?」とか「カジノなんていらない!」とか「こんな暑いとき五輪やったら人が死ぬぞ!」とか「今すぐ全学校にクーラーいれるべきだっ!」とか。

 耳が痛い人もいるかもしれないが、誰かが『水を差さ』ないと、鍋から湯があふれ出て取り返しのつかなくなることもある。

                  

【プロフィル】春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ) 落語家、昭和53年千葉県生まれ。日大芸術学部卒。平成13年、春風亭一朝に入門して朝左久、二つ目昇進時に一之輔を名乗る。24年、21人抜きで真打ちに抜擢(ばってき)。古典落語の滑稽噺を中心に、人情噺、新作など持ちネタは200以上。

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