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【正論】生物兵器研究を禁止する倫理を 東京大学客員教授・米本昌平

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【正論】
生物兵器研究を禁止する倫理を 東京大学客員教授・米本昌平

 米本昌平・東京大客員教授  米本昌平・東京大客員教授

 ≪広義の安全保障に繋がる議論を

 現在、生物兵器の危険性は、3つの先行事例を念頭に議論されることが多い。(1)湾岸戦争後にイラクの生物兵器研究が暴露されたように、“ならずもの国家”による保有、(2)95年のオウム真理教による地下鉄サリン事件(死者13人、負傷者6000人以上。教団はボツリヌス菌も研究していた)という大規模テロ、(3)2001年9月11日の米中枢同時テロの後に起こった、小規模のバイオテロ(炭疽菌が新聞社や連邦議員に郵送され、死者5人を出した)-の3タイプである。

 現在の議論の大勢は、ゲノム編集技術や合成生物学が生物兵器開発に繋(つな)がる恐れはゼロではないが、遺伝子組み換え技術と同様、現行の対応策を強化するよりない、というものである。

 その一因として、生命科学研究においてはとりわけ軍民両用(デュアルユース)の境界が漠然としていることがある。そのため、病原菌株の管理を厳格にする一方で、研究の透明性を徹底させ、疑義のある研究は絶対に行わないとする研究倫理を確実に守る職能文化を育まなくてはならない。

 他方、現代社会はバイオテロには非常に脆弱(ぜいじゃく)であり、予防手段はないという前提で対策をとるほかない。万一、バイオテロが起こってしまった場合は、初動の対応が決定的に重要である。普通ではない感染症の発症を早期にかつ正確に検知できる人材・診断インフラ・専門知識などが不可欠である。

 この面での公衆衛生の水準を上げ、ワクチン研究もしなければならない。ただし、これらが兵器研究に繋がるのではないかという批判は当然出てくる。必要な社会的機能である以上、こういうまなざしの下で整備すべきなのだ。こうした質の高い議論が行われること自体が、広義の安全保障に繋がることを認識すべきである。(よねもと しょうへい)

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