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【産経抄】6月7日

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【産経抄】
6月7日

 遺影を持って傍聴席に座りたい。妻を殺した男の公判を前に、岡村勲弁護士は裁判所に願い出た。今から20年前である。岡村さんは経営破綻した山一証券の代理人、男は株で損をしたという顧客だった。恨みを買い、いわば身代わりで妻は刺された。

 ▼裁判所の答えは「ノー」。それどころか起訴状などの資料も開示されない。公判記録の閲覧すら拒まれ、疎外感だけが募ってゆく。かつて日本弁護士連合会副会長を務めた岡村さんは司法のプロだが、被害者を蚊帳の外に置く刑事司法制度の理不尽に言葉を失った。

 ▼「犯罪被害者とは、かくも絶望的な存在だったのか」。当時の心境が夏樹静子さんのノンフィクション『裁判百年史ものがたり』にある。被害者の権利を認めさせ、被害回復に向けた制度を作る。実現不可能ともいわれた難題を掲げ、同じ境涯の有志と手を結んだ。

 ▼それが平成12年1月に設立された「全国犯罪被害者の会(あすの会)」である。被害者の裁判参加、凶悪犯罪の公訴時効撤廃、少年審判の傍聴などをかなえ、被害者や家族の屈託をぬぐってきた功績は、読者もご存じだろう。遺影の持ち込み許可も実現させている。

 ▼紙面を開く手が悲惨な事件の報に震えぬ日はない。14年前に幼いわが子を奪われ「家族の時計はあの日から進んでいない」とつづった母親の手記をきのう目にした。犯罪被害者への補償は今も「一時給付」の色が濃く、国が完全補償するフランスなどにはほど遠い。

 ▼「あすの会」は一定の成果を残したとして、約18年の活動に幕を下ろした。宿題は社会に引き継がれたと考えるべきなのだろう。8日は、大阪教育大学付属池田小学校の児童殺傷事件から17年になる。傷の癒えぬ人たちを思うことから始めたい。

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