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【国語逍遥】(95)清湖口敏 「ホワイトデー」 草食系男子も恋に目覚めよ

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【国語逍遥】
(95)清湖口敏 「ホワイトデー」 草食系男子も恋に目覚めよ

布忍神社の社殿=大阪府松原市(布忍神社提供) 布忍神社の社殿=大阪府松原市(布忍神社提供)

 紫の上といえば、光源氏の恋愛遍歴の中でも、とりわけ彼の心に強く存在し続けた特別の女性だ。源氏がひそかに慕う藤壺の面影を宿す紫の上は、例えば夕霧の目を通して「気高くてきれいで、さっと匂いの立つ気がして、春の曙(あけぼの)の霞(かすみ)の中から美しい樺桜(かばざくら)の咲き乱れた…」(与謝野晶子訳)と比喩されるほどの美しさだった。薄幸な身の上から源氏の実質的な正妻となっていく紫の上。だがその栄誉とは裏腹に、寂しい死を迎えることとなる。

 源氏物語には、身分の低い女性が貴公子の寵愛(ちょうあい)を受ける、いわゆるシンデレラ・ストーリーが多い。熱心な読者だった菅原孝標女(たかすえのむすめ)は『更級(さらしな)日記』に「光の源氏の夕顔、宇治の大将の浮舟の女君のやうにこそあらめ…」と記した。光源氏がその可憐(かれん)さにひかれた夕顔や、宇治の薫(かおる)大将に愛された浮舟のようになることを夢見たのである。夕顔も浮舟も高貴の血筋ではない点に、孝標女は自らとの共通点を見たのかもしれない。

 残念ながら夕顔も浮舟も不幸な結末に至る。

 平安中期に書かれた源氏物語は、一夫多妻といった現代とは全く異なる社会通念に貫かれている。男の、今でいう不倫をも当然のこととして受け入れざるを得なかった女性は、嫉妬や葛藤、自己抑制に苦しむばかりだった。それでも物語が現代女性を引きつけるのは、形はどうあれ愛に生きようとする女性のひたむきさが共感されるからだと、私は勝手に信じている。

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