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【産経抄】
3月13日

 平成24年に87歳で亡くなった俳優の大滝秀治さんは、芝居の稽古の前に必ず台本を2冊もらった。1冊は肌身離さず持ち歩く。演劇評論家の木村隆さんのインタビューに、「体から離すと、役が逃げるような気がして」と語っている。

 ▼書き込みもあって、当然汚れる。「ちょっと見せてください」といわれても断った。「ダメです。台本っていうのは下着とおんなじでね。パンツ見せる人いますか」(『演劇人の本音』早川書房)。

 ▼財務省はなぜ、学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却に関する文書について、国会でありのままの開示をしぶっていたのか。理由がようやく明らかになった。もちろん、名優とは事情がまったく異なっている。昨年2月以降、14の文書で多数に及ぶ書き換えを行っていたからだ。

 ▼削除された部分には、安倍晋三首相夫人の昭恵氏や複数の政治家に関する記述が含まれている。「記録は残っていない」と国会で答弁した佐川宣寿(のぶひさ)氏は、疑惑の核心については、口を閉ざしたまま国税庁長官を辞任した。売却交渉に関わっていた近畿財務局の男性職員が自殺した、との報道もある。もはや真相が徹底的に解明されないかぎり、誰一人幕引きに納得しない。

 ▼大滝さんは、役者の心得について聞かれて、「自信と謙虚の間で生きればいい」と答えている。「自信の上にうぬぼれがある。謙虚の下に卑屈がある」。「最強官庁」と称されてきた財務省のエリート官僚の心得も、本来は同じはずである。

 ▼しかし、今回の公文書書き換えの発覚で、「国民に真実を伝えなくてよい」とする、独善的なうぬぼれの体質が明らかになった。では一体、誰に対して卑屈になって、前代未聞の不祥事に手を染めたのか。

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