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【産経抄】残念ながら教育にはノーベル賞がない 2月16日

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【産経抄】
残念ながら教育にはノーベル賞がない 2月16日

 世界で初めて車を発明したのは、紀元前3500年ごろにメソポタミア地方に住んでいたシュメール人だという。ヨーロッパでは、馬車が自動車や鉄道以前の代表的な乗り物だった。

 ▼ではなぜ日本には、明治時代に外国から持ち込まれるまで馬車が存在しなかったのか。板倉聖宣(きよのぶ)さんの『日本史再発見』は、見事に謎を解き明かしていた。文部科学省が公表した高校学習指導要領改定案の内容を見て、かつて目からたくさんの鱗(うろこ)が落ちたこの本を思い出した。

 ▼改定案の目玉は、18世紀以降の世界と日本の歴史を総合的に学ぶ「歴史総合」である。課題を見つけて、データや資料に基づいて解決する。授業を成功させるには、科学史が専門の板倉さんの手法が欠かせないからだ。

 ▼教育研究者としては、「仮説実験授業」の提唱者として知られる。物理や化学の現象について、生徒が結果を予想し、実験で確かめる。「もっとも大切なのは、科学への好奇心を育てること」。これが持論だった。

 ▼ご本人こそ、好奇心のかたまりだった。イラク戦争に際して、江戸時代のアイヌ民族と和人の歴史をわかりやすく紹介する本を書いた。子供たちに民族問題を考えてほしい、との願いからだ。最近高値が話題になっている、白菜のルーツを探った著作もある。

 ▼小紙は5年前、若い世代の「理科離れ」をテーマに座談会を企画したことがある。ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英さんとともに参加をお願いしたのが、板倉さんだった。「研究でノーベル賞を取ったら尊敬されるが、残念ながら教育にはノーベル賞がない」。板倉さんの発言に、益川さんは苦笑するしかなかった。87歳で亡くなった板倉さんは、今回の改定案をどのように評価するだろう。

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