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【日曜に書く】「出ていけ!」「連載中止だ!」怒鳴り合った夜…西部邁さんの柔らかく温かい手のひら 論説委員・河村直哉

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【日曜に書く】
「出ていけ!」「連載中止だ!」怒鳴り合った夜…西部邁さんの柔らかく温かい手のひら 論説委員・河村直哉

西部邁さん(桐原正道撮影) 西部邁さん(桐原正道撮影)

厳しく優しい人

 ここでは西部さんの思想について書くつもりはない。亡くなった夜、評伝を書き、大阪本社発行の一部地域の朝刊に入れた。西部さんは保守思想に学問としての骨格と精密さを与えた、と書いた。日本の至宝というべき存在、とも。今もそう思っている。

 その舌鋒(ぜっぽう)の鋭さから、西部さんは敬遠されもした。けれども筆者には、その思想への敬意と人柄への愛着しかない。厳しいけれど、どこまでも優しい方だった。いつだったか、酒席で何かの粉末を見せ、これを飲むと酔っ払わない、と言った。酒は飲んでも酔っ払ってはいけないよ、と、ちゃめっ気たっぷりの表情で言うのである。思わず、それ私にもください、と言った記憶がある。

 他者に迷惑をかけるなら自裁するという考えはかねて公言していたし、最近の著作を読んでいて西部さんが死に近づいているように感じていた。

 もっと接しておけばよかったという悔いもあれば、西部さんらしいとの思いもある。自死を推奨するわけではない。西部さんはおのれを貫かれたということである。

 最後に親しくお話をしたのは、「正論」懇話会の講師として奈良にお迎えしたときである。もう8年近くも前になってしまった。

 講演が終わり翌朝、見送りのためホテルに行った。

 タクシーに乗る間際、何を思われたか、西部さんは筆者に右手を差し出した。

 握り返した。柔らかく温かい手のひらだった。(かわむら なおや)

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