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【スポーツ茶論】
正木利和 「ボクシングの虫」のうずき
《ボクシングは奇妙なスポーツだ。》
歌人であり劇作家でもあった寺山修司(1935~83年)の著書「ポケットに名言を」をめくると、こんな文章にぶちあたる。
その続きはこうだ。
《同じことを街中でやってみろ。たちまち逮捕される。》
カーク・ダグラス(101)という、米国の名優が主演した「チャンピオン」という古い映画の台詞(せりふ)だそうである。
街の真ん中で殴り合いをやってしまったら、そりゃあ当たり前だろうが、とついこの映画のシナリオライターを突っ込みたくなる。
しかし、「奇妙なスポーツ」であるという点においては、激しく同意したい。
その奇妙さとは、このスポーツのもつ「中毒性」のようなもののことである。
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1980年代の米国中量級黄金時代にシュガー・レイ・レナード(61)というボクサーがいた。彼は引退とカムバックを何度も繰り返した。一方、そのライバルだったロベルト・デュラン(66)というパナマ選手は、50歳になってもなおリングに上がった。法外なファイトマネーを手にしているにもかかわらず、彼らはなぜか、いつまでもボクシングという競技から離れようとはしなかった。