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【産経抄】葉室作品から元気をもらって新年を迎えよう 12月25日

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【産経抄】
葉室作品から元気をもらって新年を迎えよう 12月25日

 豊後羽根(ぶんごうね)藩の若い藩士、檀野(だんの)庄三郎が、山村に足を踏み入れるところから、物語は始まる。訪ねた先は、幽閉中の元郡(こおり)奉行、戸田秋谷(しゅうこく)の屋敷である。秋谷は7年前に、前藩主の側室と不義をはたらいたとして、藩史編纂(へんさん)と10年後の切腹を命じられていた。

 ▼時代小説作家の葉室麟(はむろ・りん)さんは、『蜩(ひぐらし)ノ記』を書き上げてから、気がついた。学生時代に記録文学者、上野英信(えいしん)さんを訪ねたときのイメージと重なっている。上野さんは、福岡県の筑豊炭鉱で坑内労働に従事しながら、炭鉱をテーマにした文学活動を続けていた。

 ▼秋谷の高潔な生き方に感銘を受ける庄三郎は、上野さんを生涯の師と仰ぐ葉室さんそのものだった。「単に文学賞としていただけたうれしさだけではない。青春の思い出に巡り合えた非常に大切な受賞です」。葉室さんは、直木賞の受賞スピーチでこうコメントしていた。

 ▼九州の地方紙記者をへて、作家デビューを果たしたとき、すでに50歳を過ぎていた。「若い作家と比べて、人生経験の数が私の強み」。インタビューでは、「遅咲き」を気にしている様子はなかった。

 ▼もっとも、60歳で直木賞を受賞したとき、「きちんとした仕事ができるのもあと、6、7年だろうな」とも語っている。まさに時間と競争するかのように、年6~8冊のペースで小説を発表していた。その葉室さんの突然の訃報が届いた。66歳だった。

 ▼「いやはや、泣けます。そして元気、勇気がふつふつと湧いてきます」。落語家の桂文珍さんもファンの一人らしい。平成25年の年の暮れに小紙の「書評倶楽部」で取り上げたのは、『蜩ノ記』と同じ羽根藩を舞台とする『潮鳴り』だった。小欄も葉室さんの作品から元気をもらい、新年を迎えようと思う。

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