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【千夜一夜】静けさを破った電子音に指揮者の一太刀

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【千夜一夜】
静けさを破った電子音に指揮者の一太刀

 指揮者は演奏を止めた。観客席に向き直って二言三言呼びかけ、スマートフォンの電子音がようやく止まった。

 11月中旬、エジプトの首都カイロにあるオペラハウスでのことだ。チャイコフスキーの交響曲第5番の演奏中、耳をそばだてないと聞こえないぐらい繊細な場面で、会場の静けさを電子音が破った。

 オペラハウスには何度か足を運んでいるが、観客のマナーに首をかしげることが多い。「ようやく注意したな」というのが本音だ。

 オーケストラの演奏中、話し声が延々と聞こえるのはいつものこと。スマホを構えて動画を撮り続け、休憩の間に“撮れ高”を確認する人もいる。「みなインターネット上に流れてしまうので、CDが売れない。だから作らない」という演奏家の話も聞いた。

 指揮者はこの夜、譜面も持たず、すべて暗譜してタクトを振っていた。その気迫がオーケストラにも聴衆にも伝わったのだろう。最後は多くの人が立って拍手を送るほど、すばらしい演奏になった。

 このオペラハウス、実は日本の無償援助で建設され、来年で30年となる。日本とエジプトの縁は意外と古くて深い。それは喜ばしいことなのだが、他人の迷惑になることは慎むという心配りも、もう少しエジプトの人たちに伝わればと思う。(佐藤貴生)

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