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【産経抄】12月3日

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【産経抄】
12月3日

 森鴎外は最晩年に『元號(げんごう)考』という労作を残した。「大化」に始まる元号の典拠を詳細に記した考証本である。そこには「明治」の1つ前、つまり「慶応」を定めるに際して、他に40もの案があったと書かれている。

 ▼『書経』の一節「地平天成」から引いた2文字も候補の一つだった。そのとき席を譲った「平成」は、約120年を経て日なたに出たことになる。中国文学者の高島俊男さんによると、247ある元号で「平」の字が使われたのは12度目、「成」は初めてだという。

 ▼戦争と経済成長を経た「昭和」が過ぎ、「地平らかに天成る」という新たな元号に国民は平和の継承と国力のさらなる発展を誓った。海外を志す若者の飛躍。IT機器の進歩による暮らしの変化。経済の盛衰。幾度もの天災。脳裏をよぎる映像は、百人百様だろう。

 ▼慈悲深いまなざしを、胸に刻む人も多いのではないか。哀歓苦楽の中でもとりわけ国民の「哀」と「苦」に心をお寄せになった天皇、皇后両陛下である。憲政史上、例のない譲位の意向をにじませた国民へのお言葉から1年4カ月、御代(みよ)替わりに深い感慨を覚える。

 ▼天皇陛下が平成31年4月30日で譲位され、翌5月1日に皇太子さまの新天皇即位と改元が行われると決まった。これからの500日余りは、それぞれの中にある「平成史」を整理しながら、次の時代に胸を躍らせる日々にもなろう。新たな元号への願いも尽きない。

 ▼高島さんは昔日のエッセーで、元号を日本の古典に求めよと書いた。瑞穂(みずほ)の国や秋津島という国の美称から取るもよし。群がり立つ八雲もよいと。国民一人一人が安寧と希望に満ちた天地を願い、どんな2文字がいいかと思案する。ご譲位のかなうがゆえに、許された夢想もある。

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