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【日曜に書く】漫画で読む古典もあなどれない 論説委員・清湖口敏

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【日曜に書く】
漫画で読む古典もあなどれない 論説委員・清湖口敏

 古典読解に骨が折れるのは言葉の問題のほか、当時の時代状況-例えば服装や住居、風物などが具体的にイメージしにくい点も影響していよう。だが漫画ならそれらも一目瞭然に把握でき、難なく古典の世界に入っていける。結局私は古典入門書としての漫画本の効用に目覚め、これまでに計3冊を“読破”するに至ったのである。次はいよいよ『源氏物語』か…。

 ところで古典入門といえば、現代語訳にもちょっとした変化が起きている。橋本治氏の『桃尻語訳 枕草子』が世に出て話題を呼んだのはもう30年も前の話だが、2年前には芥川賞作家の町田康氏が『宇治拾遺物語』を現代語訳するなど、個性的な訳文が読者を魅了している。

 ◆まるで上方落語

 宇治拾遺の第133話「そら入水(じゅすい)したる僧の事」(町田訳では「偽装入水を企てた僧侶のこと」)で、川で溺れかけたところを助けられた僧が礼を言う場面。原文には「広大の御恩蒙(こうぶ)り候ひぬ」とだけあるのが、町田氏にかかれば「ああ、えらい目におおた。けど、おおき、ありがとう。おおき、ありがとう。お陰様で助かりました」となる。まるで上方落語の台本を読むような感じで、逐語訳を重んじる国文学者にはさだめし書けない訳だろう(もっとも学者がこんな訳をしたら、それはそれで問題かもしれないが)。

 とにもかくにも古典嫌いをなくすには、これら漫画や新しい現代語訳を活用するのも一法かと思われる。ただし、せっかく古典への扉を開きながら、その奥へと入っていかないのはあまりにも惜しい。いつの日かぜひ、原文のもつリズムや格調にも触れてほしいものである。(せこぐち さとし)

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