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【日曜に書く】論説委員・長辻象平 虎徹名人、今こそ出番ですぞ

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【日曜に書く】
論説委員・長辻象平 虎徹名人、今こそ出番ですぞ

 ◆時代・歴史小説の役割

 虎徹という実在の名人とその刀についての共通理解を前提として小説にしたのだが、先のA君の反応をみると、時代小説は時代の変化を考慮しなければならない時代に差しかかっているようだ。

 京都三条の池田屋で尊攘(そんじょう)派と斬り結んだ新選組局長の近藤勇が江戸への手紙で、隊士たちの刀はひどく傷んだのに「自分の刀は虎徹であるためか無事だった」と伝えたのは有名な話だが、これを知る世代は少数派になりつつあるらしい。

 「日本」そのものが体感する以上の速さで変質しつつある。テレビの新作時代劇が勢いを失ったことも、その前駆現象なのだろう。

 今年は、江戸時代を舞台に人々の細やかな人情や藩の権力争いに巻き込まれる武士の不条理などを描いて定評のあった藤沢周平さんの没後、20年に当たっている。司馬遼太郎さんは、その1年前の物故である。

 この両作家をはじめとする優れた時代・歴史小説の書き手が現代人の心の「日本」を涵養(かんよう)してきたのだと思う。

 最近、神戸製鋼所をはじめ、日本のものづくりの信頼性に影を落とす技術上の不祥事が相次ぎ起きている。かつての日本ではなかったことだ。日本の文化を貫く軸の劣化かもしれない。 刀匠は仕事の手を抜かなかった。抜けばただちに所有者の命にかかわるからである。

 末尾で、ささやかな牽強(けんきょう)付会をお許し願いたい。大先輩の司馬さんと私には共通点がある。誕生日が同じなのだ。(ながつじ しょうへい)

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