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【産経抄】家族を詠う幸福 10月17日

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【産経抄】
家族を詠う幸福 10月17日

 詩人の井川博年(いかわひろとし)さんは、ケーキ店で慣れないアルバイトをする娘さんの様子を見に行った。濃い口紅が似合っていない。ケーキを包みながら、お客に「アリガトウゴザイマス」という姿もぎこちない。

 ▼「はらはらしながら見ていた私も合わせて アリガトウゴザイマスといっていた」。「日暮れの町で」と題された作品は、詩集『幸福』に収められている。昨日発表された「河野(かわの)裕子短歌賞」の最優秀作品から、この詩を思い出した。

 ▼「バイト先でピザ焼く吾子(わがこ)をのぞき見つあいつあんなふうに笑うんだなあ」。こちらのアルバイト先はピザ店である。普段気づかなかった子供の成長ぶりを確認した、親としての喜びが素直に伝わってくる。ほんの少しの寂しさも感じさせる点が、選者たちに評価された。

 ▼現代の女性短歌をリードした河野裕子さんは、多くの家族の歌の名作を残した。「しんしんとひとすぢ続く蝉(せみ)のこゑ産みたる後の薄明に聴こゆ」。「遺(のこ)すのは子らと歌のみ蜩(ひぐらし)のこゑひとすぢに夕日に鳴けり」。セミの声を聴きながら長男の永田淳さんを出産してから、平成22年に64歳で亡くなるまで、淳さんの歌だけで500首近くを残した。

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