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【宮家邦彦のWorld Watch】石黒一雄か、Kイシグロか…日本人の両親からの感性とそれを昇華させた英国の教育システムとの「日英合作」なのだろう

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【宮家邦彦のWorld Watch】
石黒一雄か、Kイシグロか…日本人の両親からの感性とそれを昇華させた英国の教育システムとの「日英合作」なのだろう

ロンドン市内の自宅でノーベル文学賞受賞の喜びを語るカズオ・イシグロ氏=5日(AP) ロンドン市内の自宅でノーベル文学賞受賞の喜びを語るカズオ・イシグロ氏=5日(AP)

 この点、石黒氏は英語一本に絞ったようだ。家では両親と日本語をしゃべっても、彼の母国語は日本語ではなく、英語なのだ。石黒氏の世界観に日本が大きく影響したことは疑いがない。しかし、彼の日本理解は外国のどの作家や学者とも異なる。

 彼は渡英後30年間日本に戻っていない。母国語が英語である石黒氏の日本観は、母国語が日本語である両親を通じ、英語によって抽象化されたものだからだ。かくも特異な環境にいたからこそ、石黒氏は「現実が非現実となり、またその逆も真である」世界を描けたのだろう。少なくとも、日本語が母国語である筆者は、英語で抽象的概念を考えることなど到底できない。イシグロ文学の神髄は正にここにある。

 石黒氏の処女作が高い評価を得始めた83年、彼は英国市民ではなかった。帰化した理由につき石黒氏は、「文学賞の受賞資格を得ることも大事だったが、自分は日本語が上手ではなく、自分の感覚はブリティッシュであり、自分の将来は英国にあると考えたからだ。それでも自分自身は今も日本の一部だとも思っている」と述べている。何とも微妙なバランス感覚ではないか。カズオ・イシグロは日本人でも英国人でもない。強いて言えば、日本人の両親からの感性とそれを昇華させた英国の教育システムとの「日英合作」なのだろう。

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