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【一服どうぞ】おもてなしは助け合い 裏千家前家元・千玄室

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【一服どうぞ】
おもてなしは助け合い 裏千家前家元・千玄室

 日本は情の文化によって歴史が作られてきた。伝統と伝承の存在が他の人に対して思いやりや手を貸すことを教えてきた。昔話には、その良さを守ろうとする心構えが垣間見える。「もてなし」を売り言葉に観光の宣伝に用いるなどはもっての外である。「もてなす」すなわち「もってなす」は人間同士が助け合う共存・共栄のために生まれた心構えである。少しの手助け、何でもない仕様で人を遇する。「お茶でも如何(いかが)ですか」この一言で相手に通じるのだ。

 8月1日(旧暦)の八朔(はっさく)祝儀は、徳川家康が江戸城に入城し諸侯が挨拶に伺候(しこう)したことに始まるといわれる。しかし、本来農民の間の「頼みますよ」すなわち「田のみの節句」で、収穫の秋を控えてお互いにささやかなものを配り、忙しい時に手を貸し合うための挨拶であった。お中元などこの名残である。

 見知らぬ人間同士の間でも少しの助け合いで安穏な心が広がる。現代社会では、口先ばかりで真の心からのものが足らない。一寸(ちょっと)した言葉の綾(あや)で結ばれてこそ安らぎが生まれる。農民たちの「田のみ」、忙しくなる田畑の仕事にお互い手を貸し合うことを願う素朴な心を、私たちは見習っていかねばならないのではなかろうか。『古事記』や『日本書紀』、『続日本紀』はたまた『日本後紀』など古典をひもといて先人たちの伝え残した言葉とともに心のあり方を知ることは大切である。どんな国にも伝統の上に成り立つ物語はあるのだから。 (せん げんしつ)

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