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【一筆多論】格差招いた「貿易悪玉論」は本当か? 長谷川秀行

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【一筆多論】
格差招いた「貿易悪玉論」は本当か? 長谷川秀行

 情報通信技術(ICT)などが急速に普及する中、これに順応できる高技能・高賃金の働き手が求められる半面、そこから取り残される人も多いからだ。

 無論、グローバル化が格差に及ぼす影響もある。生産拠点を新興国に移せば先進国の低賃金労働者にしわ寄せがいく。逆に、安価な消費財などの輸入増で、低所得層ほど相対的に大きな恩恵を受ける面もある。

 格差はこれらの要因が複合的に絡み合う。今年の通商白書が、貿易は教育や労働政策とともに格差の縮小要因だと結論付けた分析は示唆に富む。保護主義を阻む論拠の一つとすべきだ。

 問題は、米国が耳を貸すかどうかである。やっかいなのは、世界全体や先進国などの大きな括(くく)りでみた総論では「貿易悪玉論」に理がないとしても、個別にみると、海外勢との競争で衰退した地域や産業が現に存在していることだ。

 大統領選でトランプ氏の躍進を支えた「ラストベルト」(さびた工業地帯)もそうだろう。貿易によって一部地域や労働者が深刻な負の影響を受けることは世界貿易機関(WTO)とIMFなどの共同報告書でも指摘されている。

 もちろん、雇用や格差拡大への国民の不満が大きいなら、安易に保護主義に向かうのではなく、技術進歩に応じた職業訓練や再就職支援などの対策を充実させるのが筋である。

 だが、今の米政権にそれを期待できるとは考えにくい。他国攻撃の方が、手っ取り早く国民感情に訴求できるという判断を優先するとみる方が現実的だ。「貿易悪玉論」の払拭には理屈が通じぬ難しさがある。(論説副委員長)

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