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【産経抄】無粋な建造物は昭和の技術者の記念碑 8月10日

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【産経抄】
無粋な建造物は昭和の技術者の記念碑 8月10日

上空を覆う首都高速道路の地下移設が検討される日本橋=東京都中央区 上空を覆う首都高速道路の地下移設が検討される日本橋=東京都中央区

 東京都心の首都高速道路は本日、大渋滞が予想される。お盆前でトラックの数が増える上、早めに休みを取った人たちの車が流れ込むからだ。

 ▼1972年に公開された旧ソ連のSF映画「惑星ソラリス」には、首都高の映像が使われている。タルコフスキー監督にとって、未来都市を表現する上で欠かせない素材だった。確かに当時、ビルの間を縫うように走る高速道路は他に存在しなかった。

 ▼戦後の東京は復興が進むにつれて、交通問題が深刻化する。道路用地を買収する資金も時間もない。そこで東京都の都市計画部長だった山田正男さんから出てきたアイデアが、「空中作戦」である。江戸時代から残る堀や運河の上に高架の道路を造る。昭和39(1964)年開催の東京五輪に間に合うよう、突貫工事が続いた。関わった技術者は10万人に及んだ。

 ▼ただ、山田さんには心残りがあった。日本橋の上を通り、周辺の景観を損なってきた道路である。山田さんらは、川の干拓をして橋の下に通そうとしたが、河川管理サイドが認めなかった。地下を掘って高速を通す時間的余裕もなかった(『首都高物語』)。

 ▼道路の撤去は、周辺住民と商店主の長年の念願である。小泉純一郎政権時代に、道路を地下へ移す計画が持ち上がった。国土交通省と東京都によると、ようやく具体的な検討に入った。着手するのは、東京五輪の後になるらしい。実現すれば、成熟都市の再生事業の優れたモデルになるだろう。

 ▼ただ、日本橋の空を奪った「無粋な建造物」として批判されてきた道路は、昭和の技術者の記念碑でもある。あらゆる難題をはねのけ、奇跡的な工事をやり遂げた、彼らの知恵とエネルギーへの敬意だけは、けっして忘れたくない。

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