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【一筆多論】
もうひとつの介護離職 佐藤好美
ちょうどこの日、一人の母親が、1歳の男児をもみじの家に預けた。男児はいったん受け入れの決まった保育園で入園を断られた。「障害が重すぎる」というのが理由だ。デザインの仕事に携わる母親は、職場復帰のめどが立たない。「週に2、3日預かってもらえれば、在宅ワークができるのに…」ともらす。
重度の子供を受け入れる場所が少ないから、利用希望が集中する。利用に制限がかかり、週1日の預かりでは仕事に戻れないから、母親は復帰をあきらめる。
高齢者介護では「介護離職ゼロ」がうたわれる。子供の介護には「介護離職ゼロ」はうたわれないのだろうか? 母親の優先順位は、いつだって子供が第一だ。だが、生活が介護一色で、親子が“ずっと一緒”がいいとは思えない。
福井市にある「オレンジキッズケアラボ」は、在宅医療のサービスをバックボーンに、重度障害などの子供を日中預かる。
目標は子供の成長。運営する医師の紅谷浩之さんは「何か一つでも、子供に新しい体験をさせて帰したい」と言う。子供は驚いたり笑ったり、新たな表情を見せる。母親はわが子の変化に驚き、感動し、親としての悔しさもにじませる。
子供のケアに慣れた看護師が一緒に保育園に通い、保育園が受け入れできるよう支援もする。
介護が必要でも、人生に助けが必要でも、子供は人と触れあうなかで刺激を受けて成長していく。子供が心配で離れがたい母親も成長に気付くと、少し頑張って子供と距離を取ろうとする。そして自分の夢も思いだす。オレンジキッズケアラボでは、職場復帰する母親が70%以上だという。(論説委員)