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【産経抄】5月21日

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【産経抄】
5月21日

 ある娘が不思議な夢を見た。高い山に登り「月日を左右のたもとにおさめ、たち花の三つなりけるえだをかざす…」。軍記物『曽我物語』の一節にある。太陽と月をたもとに入れ、橘(たちばな)の実が3つなった枝を頭上にかざす。さて、何の前触れなのか。

 ▼「悪い夢だわ」と話を聞かされた姉は眉根を寄せて、その夢を買い取った。妹思いの美談にはしかし、裏がある。はるか昔、橘の実は「非時香菓(ときじくのかくのこのみ)」と呼ばれて重宝された。「時に左右されず香り輝く実」だ、と。吉夢と知りつつ芝居を打つ。食えない人ではないか。

 ▼後に、源頼朝の正室となった北条政子である。開業5周年の東京スカイツリーで、「橘色」のライトアップが新たに始まり、話題の的になっている。「縁起のよい色」との記事に接しゆかりの物語を思い出した。気ぜわしい日々にあって一服できるニュースだろう。

 ▼黄金色の実や清楚(せいそ)な白の花弁は古来、歌に詠まれてきた。『古今集』に〈さつき待つ花橘の香をかげばむかしの人の袖の香ぞする〉とある。色も香りも愛されてきた5月の花である。聞き慣れぬ「橘色」との出合いがわが国の歩みに思いを馳(は)せる機会になればいい。

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