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【日曜に書く】神戸から東北へ…ある本の旅 論説委員・河村直哉

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【日曜に書く】
神戸から東北へ…ある本の旅 論説委員・河村直哉

◆何度でも語ろう

 今回、福島県を訪ねる機会があった。

 東京電力福島第1原発の事故で避難生活が長期化する中、精神的な困難を募らせている被災者がいる。支援しようと、現地で懸命に心のケアに従事している人たちがいる。

 彼らに安さんの本を渡そうと思って、携えた。東日本大震災の後、古書市場で万を超える値段がついていたと、出版社の人間から聞いた記憶がある。

 本を渡して取材を進めていると、精神科医が筆者のもとに来た。面識はなかった。県外から定期的に福島に来て、活動にかかわっているという。

 医師はその本を知っていた。心からの敬意を表してくれた。

 兵庫県西宮市の医師だった。

 偶然の出会いにすぎまい。けれども安さんが東北に現れた気がして、胸が詰まった。

 その本は災害精神医学の可能性と、到達点すら示している。

 単に制度や技術について述べているのではない。手探りしながら安さんは、心に傷を負うとはどういうことか、その傷を癒やすとはどういうことか、人間の問題として書いている。私たち一人一人に何ができるのか、問うている。

 被災地にはなお膨大な心の傷つきがあり、葛藤がある。私たちは何をなすべきだろうか。

 筆者のことをいえば、必要なら何度でも、安さんの仕事について語ろうと思った。(かわむらなおや)

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