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【産経抄】それで今の私がいます 8月15日

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【産経抄】
それで今の私がいます 8月15日

 新潟県に住む林惣一郎さん(72)は、4年前に90歳で亡くなった母親の遺品を整理中に、一枚のはがきを見つけた。林さんがまだ母親のお腹(なか)のなかにいるとき出征し、戦死した父親からの軍事郵便である。

 ▼赤ん坊を気遣う記述とともに、不可解な一行があった。「父母の先、ツケ木の先です」。「父母」は父島、母島、「ツケ木」とは松などの木片の端に硫黄を塗りつけたもの。林さんは、硫黄島にいることを知らせる暗号文だと気づいた。

 ▼硫黄島は先の戦争末期の激戦地だった。総指揮官の栗林忠道中将が家族あてに送り続けた、愛情あふれる手紙もよく知られている。林さんが見つけたはがきも、そうした「硫黄島からの手紙」の一つだった。林さんは島への慰霊の旅に参加して、父親の部隊碑を抱きしめた。「お父さん」と叫びながら。

 ▼今年も『孫たちへの証言』が送られてきた。新風書房の福山琢磨社長(82)が昭和63年から毎年夏に発行している戦争体験集は、第29集を数える。体験者の減少にともない、今回から「体験編」に加えて「伝承編」を設けた。林さんの投稿もその一編である。

 ▼「生きるのが空(むな)しく思う日のありて軍事郵便出して読むなり」。数年前の産経歌壇で見つけた。『証言』を読んでも、「生きるのが空しい」といった贅沢(ぜいたく)な悩みはふっとんでしまう。

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