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【産経抄】死体は語る 2月23日

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【産経抄】
死体は語る 2月23日

 京都・山科の山林で、旅の途中の若夫婦が盗賊に襲われる。現場には、夫の死体だけが残されていた。一体、誰が殺したのか。盗賊と妻、そして夫の死霊も、巫女(みこ)の口を通して語っている。

 ▼ただ、内容は全部違っていた。芥川龍之介の『藪の中』は、犯人が明かされないまま終わる。大正11年の作品発表以来、多くの作家が真相をめぐって、論争を続けてきた。

 ▼相模原市内の墓地で昨年6月、当時25歳の女性の遺体が発見された事件も、「藪の中」にあった。元交際相手の佐藤一麿容疑者(30)は、死体を遺棄した罪を認めた。といっても、女性が亡くなった経緯については、知らぬ存ぜぬを通している。

 ▼もちろん、警視庁は慎重に捜査を進めてきた。ついに先週、佐藤容疑者を殺人容疑で逮捕する。女性の遺体からは、睡眠薬の成分が高濃度で検出されていた。それは、佐藤容疑者が知人の秋山智咲容疑者(24)に指示して、購入させた薬品と一致していた。警察は、佐藤容疑者が女性を眠らせ、首を絞めて殺害したとみている。芥川作品にはない、法医学をもってすれば、巫女の口を借りなくても、死体に語らせることができるのだ。

 ▼佐藤容疑者と女性、そして女性の長男の3人がいっしょに写っている写真も見つかった。行方不明になっている長男のことを、これまで佐藤容疑者は「知らない」と供述してきた。「生きている人の言葉には嘘がある。しかし、もの言わぬ死体は決して嘘を言わない」。死者2万体と対面してきた元監察医、上野正彦さんが言う通りである(『死体は語る』)。

 ▼上野さんは別の著作で、小説の『藪の中』の真犯人も突き止めている。芥川作品は法医学的に読んでも、矛盾なく組み立てられているそうだ。

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