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【日曜に書く】さまざまな桜を思い出す 論説委員・鹿間孝一 

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【日曜に書く】
さまざまな桜を思い出す 論説委員・鹿間孝一 

 「新しいランドセルを背負った子たちが、母親に手を引かれて校門を入っていく姿の上には、かならずと言っていいくらい、桜の花びらが降りかかっている」(山本夏彦さんとの共著「昭和恋々」から)

 久世さんは昭和17年の国民学校の入学式の記憶をたどるが、なるほどわが家の記念写真も息子が桜の下でかしこまってポーズを取っている。

 新1年生の門出にはやはり桜のトンネルをくぐらせてあげたい。あと少し、散るのは待ってほしいと願う。

 ◆戦争と震災と

 「さまざまのこと思ひ出す桜かな」

 は松尾芭蕉作である。

 誰にでも作れそうな平凡な句に思えるが、読む者によって浮かぶ情景が異なる。まさに「さまざまのこと」が。芭蕉の非凡を感じる。

 作家の池波正太郎さんにとって、それは戦争末期の横浜海軍航空隊の桜だった。

 日本の敗戦はもはや必至とみられた。用があって士官室へ行き、大尉が戻るのを待っていると、開け放った窓から桜の花びらが舞い込んできた。

 「それを見ているうちに、胸が熱くなり、おもわず眼がうるみかかるのを、どうしようもなかった。悲しいというのではない。ただ、自分は来年の春に、ふたたび桜花を見ることはできまいというおもいが、胸にこみあげてきたのである」(「桜花と私」から)

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