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【震災真論・深論】あんちゃんは、ぽつりぽつり話し始めた。「あの日」の駿を。「あの日」の別れを。

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【震災真論・深論】
あんちゃんは、ぽつりぽつり話し始めた。「あの日」の駿を。「あの日」の別れを。

大川駿さんの墓=12日、宮城県名取市(宮崎瑞穂撮影) 大川駿さんの墓=12日、宮城県名取市(宮崎瑞穂撮影)

 携帯電話が鳴る。

 画面表示の電話番号に心当たりはない。

 「泰輝(たいき)君のお母さんですか」

 女性の声だ。

 「お子さんを預かっています。お引き渡ししたいのですが」

 大津波警報が発令されていた。

 大川ゆかりさん(50)=宮城県名取市=は夫(60)と指定された場所に車で急いだ。

 女性の車が見えた。長男が乗っている。

 見覚えのないジャンパーを着ている。女性のご主人から借りたという。

 女性が車で走っていたら長男がずぶ濡(ぬ)れになって歩いていた。とりあえず自分の家に連れて帰って着替えさせ、連絡したという。

 ポリ袋も手渡された。中に濡れた服が入っている。木くずまみれだった。

 地震の起きたとき、長男は次男の駿さんと80歳の義父の3人で家にいた。次男は14歳で中2。長男は3つ上の高2で、弟に「あんちゃん」と呼ばれていた。

 車から降りた長男は顔の相をなくしていた。母に近づくなり、胸に頭をもたれ掛けた。

 「駿は?」

 「知らない」

 「じいちゃんは?」

 「知らない」

 何を聞いても首を横に振るばかりだ。

 問い詰めたらいけないと胸騒ぎがし、それ以上突っ込まなかった。

 長男を実家に預け、自宅に向かってUターンした。

 手前で規制線が張られ、立ち入りできない。自宅は海の目と鼻の先にある。その晩は夫と車の中で過ごした。

 夜明けを待って避難所を回った。2人の姿はない。

 肩を落として実家に戻る。

 「駿、いた?」

 長男が玄関に飛び出してきた。

 かぶりを振ると、表情が曇った。

 長男の目がひどく充血していた。眼科に連れて行く。首を圧迫されると表れる症状だと診断された。

 「何か思い当たることある?」

 医師が尋ねた。

 「板に挟まれて苦しかった」

 断片的にしか答えなかった。

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