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【震災真論・深論】おばちゃんの技は「宝物」 何としても雇用守る マルハニチロ石巻・工場長の奔走

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【震災真論・深論】
おばちゃんの技は「宝物」 何としても雇用守る マルハニチロ石巻・工場長の奔走

現地再建されたマルハニチロ新石巻工場。今年4月に操業を始めた。設備は最新鋭に変わってもおばちゃん従業員は変わらない=15日、宮城県石巻市 (川村寧撮影) 現地再建されたマルハニチロ新石巻工場。今年4月に操業を始めた。設備は最新鋭に変わってもおばちゃん従業員は変わらない=15日、宮城県石巻市 (川村寧撮影)

 山口もラインに立った。おばちゃんに交じり、トレー詰めをする。不慣れで手元がおぼつかない。

 「遅い!」

 容赦なく気合を入れられる。

 地元自治体の石巻市と宮城県も援軍に回った。新工場を建てる市内の候補地の造成を前倒しし、農地転用手続きを早めた。補助金も4回目の挑戦で下りるめどがつく。

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 〈当社は石巻市に新工場を建設することを決定し、宮城県および石巻市と立地協定を締結いたしました〉

 27年5月、現地再建が報道発表された。被災工場の操業を支えた250人の多くは新工場に籍を置く。

 山口は報道発表を山形県の大江工場(大江町)で聞いた。現地再建に道筋がつき、前月に異動していた。

 送別会は盛大だった。100人を超すおばちゃん従業員が集まる。酒が進んで陽気になり、肩をばしばしたたかれた。

 「石巻工場が残ったのは皆さんの勝利です」

 山口はあいさつで、震災と工場存続の危機を乗り越えた同志をたたえた。

 石巻を去る日が近づき、深夜の工場に足を踏み入れた。ラインが止まり、しんとしている。歩を進めると、記憶がよみがえる。

 工場仮復旧の日、「息子が死んだ」と目の前で泣き崩れたおばちゃんがいた。工場の見回りをしていたら、こっちに歩み寄って「家の事情で明日で辞めることになりました」と涙ながらに告げる人もいた。

 おばちゃんたちのうれし涙はあまり覚えていない。記憶にあるのは悲しみに暮れた涙ばかりだ。

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 いか天ぷら。

 石巻工場の主力製品だ。

 山口は買い物でスーパーに行くと、冷凍棚に陳列されている冷凍食品の中でもそれに目がいく。

 工場仮復旧の日に撮った写真が同社に残っている。

 いか天ぷらのパッケージを持ったおばちゃんたちが笑顔で納まっている。=敬称略(東北特派員 伊藤寿行)

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